ゲラン
シャリマー パルファム
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D’s SCORE (7.0 / 7.0)
その愛は死を越え
永遠の香りとなる

シャリマー。それは、女性用香水の至高の逸品。
年齢という境界すら越えて、纏う女性の魅力を底上げするような香り。
女性の美しさ、高貴さ、甘美さをひきだす琥珀色のヴェール。

そして、ときに男性の本能まで無意識のうちに揺さぶり、その記憶に深く刻みつける恍惚の媚薬。
この世には、本当に出会った瞬間、衝撃でのけぞるような香りがある。自分にとって、シャリマーはその一つだった。本当にときどきしかないが、初対面で心を奪われる人がいるように、香りにも心をわしづかみにされるものがある。
「何を大げさな」と感じる方は、まだ出会っていないだけかもしれない。かけがえのない人にも。心震わせる香りにも。だが「彼」は出会った。その人生において、何者にも代えられない運命の女性と。
ムガール帝国第5代皇帝、シャー・ジャハーン。彼と、その愛妃ムムターズ・マハルの物語。
シャー・ジャハーンにはムムターズ以外にも妻がいた。しかし、宮廷に残された記録が伝える彼女への寵愛は、他の妻たちに対するものとは比較にならないほど深かったという。
二人の間には14人の子が生まれた。そして1631年。14人目の子を出産したムムターズは、そのまま帰らぬ人となる。シャーの悲しみは天空を裂き、やがて彼は莫大な財と年月を費やして、白大理石の巨大な霊廟――タージ・マハルを彼女のために築かせる。世界でもっとも有名な「愛の記念碑」の一つ。
だが、ここから先は史実ではない。ゲランがシャリマーという香水に託した、一つの美しい伝説が語られる。
もしもこの逸話に感銘を受けたジャック・ゲランが、「タージ・マハル」という名の香水を作っていたなら、それはおそらく、彼の叔父エメ・ゲランが作ったジッキーのように、愛する者との別離や深い喪失の色を呈した、もの哀しげなフレグランスになったことだろう。
しかし、彼は違った。ジャック・ゲランが香水へ封じ込めたのは、死ではなかった。喪失の向こう側に残された、燃えるような愛そのものだった。ゲランが語る物語の中で、その愛は「シャリマー」という名に凝集される。
“Temple of Love――愛の殿堂”。
愛する者を失った悲しみ以上に、深く強く心に刻まれていたであろう二人の歓喜の日々。シャリマー・パルファムは、そんな美しく官能的な時間を彷彿させる、あたたかな香りだ。
センシュアルではあれど、エロティックにはあらず。
シャリマーのトップは、強烈なハーブと樹脂を思わせる辛み、そしてベルガモットが、噴水のように空気中へ霧散して開く。まるで、チェリーコークに花々やハーブを入れて煮詰めたような雰囲気。そして、確かにジッキーのオープニングを思わせる。シャリマーとジッキーの間には、ゲラン史を語るうえで無視できない強い血縁を感じる。
ベルガモットの鋭い光、その下を這う薬草や樟脳を思わせる冷たい刺激。だがシャリマーでは、その古典的な骨格がやがて大量のヴァニラへ呑み込まれ、まったく別の陶酔へ向かっていく。
心をわしづかみにする強烈なベルガモットの拡散。その下から、同じ熱量で鼻を刺激してくる薬草や樟脳めいたスパイシーな気配。好き嫌いはあるにしても、ひとかぎで他の香水とはまるで違う、繊細な複雑さと高級感が感じ取れると思う。
けれど、高慢ではない。絶え間なく鼻と脳を刺激し続け、あっという間に虜にされる。まるで、シャーとムムターズの衝撃的な出会いのように。
そして、ミドル。
炭酸のように拡散していたベルガモットが落ち着いてくると、シャリマーのミドルは、驚くべきことに温度が上昇する。ここが、ジッキーとの大きな違いだ。もっと甘く、かぐわしく、昇りつめていく。暗くパウダリーなアイリス。樹脂を思わせる甘み。そしてパチュリのほの暗い苦み。それらが入り混じり、重奏を奏でる。
低い太鼓が鳴る。シタールの調べ。松明のオレンジ色の灯りに照らされ、二人の体温が上昇してゆく。燃えさかる愛の調べ。誰にも邪魔されない、二人の時間。
やがて気がつくと、穏やかなヴァニラとトンカビーンの香りへ変わっていることに驚きを覚える。そんなクリーミーな甘さが感じられたら、ラスト。
パルファムなので、香りを遠くへ飛ばすというより、肌の近くで濃密に息づく。点でつけたときの、あのかぐわしさ。自分の体温。気温。湿度。そのわずかな違いに応じて、さながらオーロラのように、さまざまな表情を見せる香りの揺らぎ。そこには、トワレやオード・パルファムでは得がたい密度と奥行きが感じられる。そのわずかな変化を楽しむだけで、深い安息を得ることができる。
それは、オポポナクスを思わせる甘く燻る樹脂香。白っぽくパウダリーに落ち着いたアイリス。そして、柔らかなヴァニラ。訪れるのは至福のラスト。恋人たちの体温であたたかみを増したシルクを思わせる香り。
このラストに包まれて眠りにいざなわれたなら、どんなに安らぎ、よい夢が見られるだろう。そう思わせるようなドライダウン。シャリマーを寝香水として愛する人がいるというのも、よくわかる。それは、二人の穏やかな寝息。白亜のパレスの、蒼い夜。
シャリマー。それは、ゆるぎない愛と官能の泉。
こんこんと湧き出る、琥珀色の陶酔。一途な愛を現世にとどめつつ、時空を超え、天上での再会を誓って焚きしめられた聖なるバルサムの香り。
思い出の庭園の上に広がる、インディゴ・ブルーの夜空。
星々のまたたきに吸いこまれ、消えてゆく白い燻煙のドレープ。
とろけるような、天使のヴァニリック・ゲルリナーデ。

その香り、別格。

D’s SCORE
(7.0 / 7.0)
BRAND
GUERLAIN
PERFUME
SHALIMAR
CONCENTRATION
PARFUM
RELEASE
1925
TOP
ベルガモット/フローラルノート
HEART
アイリス/ジャスミン/ローズ
BASE
ヴァニラ/バルサミックノート/トンカビーン
PERFUMER
JACQUES GUERLAIN

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