LOUIS VUITTON | MOON TALE

ムーンテイル

ルイ・ヴィトン ムーン テイルの香水ボトル

 D’s SCORE(5.6 / 7.0)

 蒼い闇と紅の唇
 月の物語が始まる

青い月明かりの中、女が一人、鏡に向かっている。

まだ月は低い。

その光に照らされて、女は化粧を始める。ラズベリーの紅を唇に。ピオニーの淡いピンクを瞼に。ジャスミンの白を、白粉のように肌へ。

月明かりの窓辺で鏡に向かい化粧をする女性とムーン テイルのボトル

少しずつ、美しくなっていく。月だけが、それを見下ろしている。

そんなイメージを表現したのが、ルイ・ヴィトンの「ムーン テイル」だ。

2025年、中国文化に着想を得た「Journey to China」コレクションの一作。調香師ジャック・キャヴァリエ=ベルトリュードがこの香りに重ねたのは、中国古代の「四大美人」にまつわる伝説だった。

あまりの美しさに、月さえ恥じて雲の陰へ隠れてしまったという女。

タイトルは「月の物語」。

なるほど。

確かにこの香りを肌にのせていると、「月」というタイトルが、だんだん香りの中に見えてくるように思う。

では、実際の変化はどうか。

ムーン テイルをスプレーする。

最初に立ち上るのは、シトラスとは少し違う爽やかさ。

洗いたての髪のような、透明で清潔な匂いがふわっと広がる。みずみずしい花の気配。いわゆる「フローラル系シャンプーの香り」に近い気もするが、それだけでは片づけにくい。

公式ではラズベリーがクレジットされている。ただ、自分の肌では果汁が弾けるような甘酸っぱさでもなければ、赤いフルーツが主役の香水という感じもしない。

むしろ、水を含んだピオニーやマグノリアの透明感に、ラズベリーの明るさやゼラニウムの青さが薄く溶け込んでいるように感じる。だから鼻が、ひとつの香料を捕まえにくい。

ラズベリーでもない。ピオニーだけでもない。シトラスとも違う。ただ、爽やかで、瑞々しく、清潔。このクリーンなフレッシュさが、ムーン テイルの第一印象だった。

それでも、かすかに赤はある。青白い月明かりの中、鏡に向かう女が手に取った紅のように。青白い世界に、唇だけがふっと色づく程度の赤。

そこからピオニーが開いてくる。このピオニーが、とても印象的だ。ほの甘く、ふわりと大輪の花を咲かせる柔らかなフローラル。露を含んだように瑞々しく、淡いピンク。そこへジャスミン・サンバックとマグノリアが混じり合う。

2つのホワイトフローラルが、愛らしいピオニーのピンクの輪郭を白くぼかしていく。花と花の境目が溶け、淡いグラデーションを描くような、ふくよかなフローラルミックスだ。

軸にあるのは、やはりピオニー。明るく、清潔。また、ジャスミンもムワッと濃厚なインドール系ではなく、軽やかで清楚だ。

だから、香りがどんどん上に上がっていく。

ここが、ムーン テイルの大きな特徴だと思う。時間が経つほど、フローラルの重心が上へ移っていく。

花の中に少し酸味を帯びた空気が入り込み、それに押し上げられるようにピオニーやジャスミンが肌からふわりと離れる。鼻の前を通り過ぎ、そのまま頭上へ抜けていくような、不思議な上昇感。

そんなミドルが現れる頃には、鏡の前の女も変わっている。

紅を差した。ピンクのアイシャドーを添えた。白粉も終えた。鏡の中で出来上がっていく自分を見ながら、気分まで高揚していく。

ふと窓の外を見る。月も、さっきより高い。そして、眩い白い光を放ち始めている。

肌にのせていく化粧の色が、香料の色彩と重なっていく。美しくなるにつれ、高揚していく女。その心を映すように、月も天空へ昇っていく。

化粧とともに高まる気持ち。高く昇っていく月。2つシンクロしている。

このイメージは、ラストのムスクを嗅いだとき、さらに鮮明になった。

ムーン テイルの残香は、フレッシュでエアリーなムスク。かなり独特だ。キンとした、清潔感のあるムスク。冷たい。けれど、透明ではない。色にするなら白。ただし紙のような真っ白ではなく、少し向こう側が透けて見える乳白色。石鹸水の色にも似ている。頬にのせた白粉にも似ている。薄いミルクの膜にも見える。

そんな乳白色の、半透明なソーピーヴェール。

しかも、その白いムスクには強い酸味がある。だからその酸味に押されるように、メインのフローラルアコードが上へ上へと高く立ち上っていく。空気まで、冷たく白く染めながら。

それはまさに、天空へ昇りきった月だ。

青い闇の低い空にあった月は、黄色。だが女が美しくなっていくにつれ、月も少しずつ昇った。ピオニーが開く頃には、もう少し高く。ジャスミンが重なる頃には、さらに高く。

そしてムスクだけが白く残る頃、月は夜空のいちばん高いところにいる。煌々と輝いている。それは、肌の上で冷たく冴えわたり、乳白色の光を放つソーピーなムスク。

満月の光そのもの。

ムーンテイルは、中国古代の美人伝説を題材にしながら、香りはとても現代的だ。ピオニー、ジャスミン、マグノリア。そして最後に残る、冷たく酸味を帯びたムスク。

古い伝説を、この香水は現代的な白い光で描いている。

そのイメージはボトルを見ると、さらにふくらむ。

青と珊瑚色の意匠は、中国の伝統的な装飾技法「点翠」から着想されたものだという。

青い月夜。紅を差した唇。

ムーンテイルの香りを知ったあとでは、ボトルの色までそんなふうに見えてしまう。そして、その二つをずっと照らし続けていたもの。それは、月光ムスクの白だ。

やがて夜は深まり、月はいよいよ銀の光のかけらを地上へ落とし始める。

鏡の前で、女が立ち上がる。化粧はもう終えている。

窓を閉めて、外へ出る。

頭上には、孤高の光を放つ月。

乳白色の光が辺りをぼうっと浮かび上がらせ、女が歩き出す。

夜と月は、気高き彼女の守護者。

そして同時に、共犯者。

彼女の靴音が街に響き、ムーンテイルの香りが夜になびく。

今夜、彼女の美しさに何人の男が堕ちるのか。

満月の夜、青いドレスの女性が街を歩くムーン テイルのエンディング情景

ムーン テイル。月の香を道連れた、女の物語が始まる。

FRAGRANCE DATA
D’s SCORE
5.6 / 7.0
BRAND
LOUIS VUITTON
FRAGRANCE
MOON TALE
ムーン テイル
RELEASE
2025
FRAGRANCE TYPE
フローラル・フルーティ・ムスキー
TOP NOTES
ラズベリー
ピオニー
MIDDLE NOTES
ゼラニウム
ジャスミン・サンバック
マグノリア
BASE NOTES
ムスク
PERFUMER
Jacques Cavallier Belletrud
ジャック・キャヴァリエ=ベルトリュード
この香りの向こうへ
GUERLAIN AMOUR CÉLESTE
夜を越え、淡い光へ。花と果実が描く、もうひとつの天空。
GUERLAIN | AMOUR CÉLESTE
MAISON FRANCIS KURKDJIAN À LA ROSE
白い光の先に咲く、柔らかな薔薇。女性の気配をもっと軽やかに。
MAISON FRANCIS KURKDJIAN | À LA ROSE
BYREDO MOJAVE GHOST
乾いた空気の中に残る、透明な花とムスク。清潔感のその向こうへ。
BYREDO | MOJAVE GHOST
Doggy Honzawa
Perfume Storyteller
「ハートスコープ」は、香りから見えた心象風景。

ここで分類している「ハートスコープ」や「感情」は、ひとつの香水と向き合う中で、自分が受け取った印象です。

けれど、香りにひとつだけの正解はありません。

同じ香りから、あなたにはまったく別の風景が見え、忘れていた記憶がよみがえるかもしれません。

ここにあるレビューや物語が、あなた自身の風景や感情と出会うための、小さな入口になればうれしく思います。
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