シャネル
ガーデニア
エクストレ ドゥ パルファム


D’s SCORE(7.0 / 7.0)
黒を極めたCHANEL。
その香りに咲く極上の白。

石畳の坂を、ひとりの女性が海へ降りていく。
陽を吸った白い壁、乾いた石の匂い、糸杉の向こうで深く沈むコバルトブルー。黒いドレスの襟元に、白いレースが風を孕む。
地中海の真昼。吹き抜ける風のなかを、ひとひらの白が歩いてゆく。

CHANEL ガーデニア Extrait de Parfumには、そんな風景がよく似合う。
誕生は1925年。ガブリエル・シャネルがエルネスト・ボーに託したのは、愛してやまない白いカメリアを、香りで描くことだった。帽子の縁にも、ボタンホールにも、彼女のそばにはいつも白いカメリアが寄り添っていた。
美しい姿ながら、香りを持たない花。その沈黙に息を吹き込む。選ばれたのは、面差しのよく似た白い花、ガーデニアだった。1983年の復刻を経て、2007年からはLes Exclusifs de CHANELへ受け継がれている。
もうひとつ、この白い香りを嗅ぐと決まって浮かぶ色がある。それは黒だ。
1920年代、ガブリエルはリトル・ブラック・ドレスで黒をモードの中心へ押し出し、同じ時代の空気のなかでガーデニアPは生まれた。
黒をあれほど美しく着こなした人だから、その隣に置く極上の白も見てみたかったのかもしれない。ガーデニアの香りを色に例えるなら、純白にひとしずくの体温を落としたアイボリー。そんな高貴な色を想う。
では、CHANELのガーデニアPとは、どんな香りか。
ガーデニアPをひとしずく肌に置くと、ふわりと大輪の白い花が開く。オレンジブロッサムの明るさ、ジャスミンの艶、チュベローズの豊かさ、いくつもの花の気配が寄り集まっている。ジャスミンを探しても、チュベローズを探しても、そこに立っているのはただ一輪、美しくやわらかなガーデニア。
CHANELガーデニアは、ずっとオードトワレ(EDT)の香りが好きだった。爽やかで、明るくて、ジャスミンとオレンジフラワーとほんの少しのグリーンが効いてとてもフレッシュな香りがする。だがPの香りに出会って、CHANELのガーデニアの印象はガラリと変わった。トワレのスッキリした感じと全く別の意味で、あまりに美しく心がとろけてしまった。断然、こちらのPがすばらしい。今はそう思う。
このガーデニアPこそ、ココ・シャネルが認めた「カメリア」の香りなのだろう。香料どうしがまろやかに、シームレスに溶け合い、何とも言えずたおやかで柔らかい白花の香りが花開く。
この調香の凄みは、それぞれの花が持つ厚みも艶も一点に収めて、幻の花に肉体を与えているところにある。
肉厚な花弁。指で触れたら溶けてしまいそうなクリーミーさ。
本当に美しく、いつまでもかいでいたい美しい白。それがガーデニアPの香りだ。トップ~ミドル、ラストへと大きく変化せず、いつ嗅いでも、きめ細やかなクリーミーフローラルに心が包まれ、ほどけていく。
それでも時間がたつと、花弁がわずかにほどけ、光の角度が移り、白の色合いが変わるイメージ。真昼は光を弾く白、午後はぬくもりを帯びたアイボリーに。
だから、この香りに浸っていると、まばゆい陽光、白い壁、そして青い風を感じるような心地よさがある。それが地中海のイメージと重なってゆく。
遠く紺碧の海を見下ろす、白い街並。華やかな白い花束を抱えて、黒いドレスの女性が石畳を降りていく。
一歩。また一歩。
レースのショールが揺れるたび、ガーデニアの甘い気配が風にそよぐ。
太陽が海へ傾き、コバルトブルーの水面に金の粒がきらめく。
白い花にも、夕暮れの温度が重なっていく。
やがて、海を見下ろすヴィラのテラス。
椅子の背に、白いレースのショール。
テーブルに、空のグラス。
彼女の姿は、もうない。
残されたのは、一輪の大きなガーデニア。
真昼の海辺を歩いた黒いドレス。
風に舞った白いレース。
乾いた石畳。
その記憶を花弁に閉じ込めて、夕陽のなかで、大輪のガーデニアが香っている。

黒を極めたCHANEL。その胸元に咲く、極上の白。

7.0 / 7.0
シャネル|ガーデニア エクストレ ドゥ パルファム
Extrait de Parfum
1925
White Floral / Floral Bouquet
Jasmine, Tuberose, Ylang-Ylang
Orange Blossom
Ernest Beaux

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