ゲラン
ベルガモット ファンタスティコ
エクストレ 11


D’s SCORE(6.2 / 7.0)
ベルガモットの光を、
終わらせない。

朝のベルガモット園には、まだ誰もいない。
葉の先には朝露。ひんやりとした空気の中、枝には黄緑色の果実が実っている。そのひとつにナイフを入れると、淡い黄色の果肉から果汁が滲み、濡れた断面に朝の光が差し込んだ。
ベルガモットは、美しい。
ただ、その光はあまりに早く消える。

香水をつけた瞬間、鮮やかに弾けるシトラス。鼻先をきゅっと刺激する酸味と、果皮から飛び散る精油の青さ。その輝きはいつも短く、気づけば次の香りが顔を出している。
ならば、その光を最後まで消えないようにするには?
ゲランの「ベルガモット ファンタスティコ エクストレ 11」をつけながら、そんなことを考えた。
ラール エ ラ マティエール エクストレは、ゲランの香りの署名「ゲルリナーデ」を成す六つの素材を、一つずつ主役に据えたコレクションだ。ベルガモットとゲランの縁は古い。1853年、創業者ピエール=フランソワ=パスカル・ゲランは、ベルガモットで爽やかさを与えたオーデコロンを皇后ウジェニーの結婚に捧げ、宮廷御用達への道を拓いた。
今回の主役は、カラブリアで11月初旬に収穫されるベルガモット、ファンタスティコ。「11」という数字も、その収穫月に由来する。この早摘みが、果実に絶妙な苦味を与えるという。
では、どんな香りか?
一吹きすると、まずレモンを思わせる爽やかな酸味が弾ける。そのすぐ下から現れるのが、グレープフルーツの白いワタを噛んだような、キリッと乾いた苦味。さらに鼻を近づけると、まだ青いライムの皮を指で潰したような青さも感じる。
みずみずしい果汁の黄色。その中を走る、果皮の黄緑。
さっきナイフを入れたばかりの果実が、まだ目の前にある。
一つの果実に、こんなにも多くの色があったのか。
5分ほどで、最初の酸味が少しずつ落ち着いてくる。その余韻を拾うように、レモングラスを思わせる草の香りがすっと伸びてきた。そこへベルガモットリーフ(プティグレン)の青い苦味が重なり、さっきまで果実だった香りが、いつの間にか葉の緑へとつながっている。
それでも、シトラスは途切れない。
果汁から果皮へ。
そして、果皮から葉へ。
ベルガモットの光が、緑の中を走っていく。
30分ほど経つと、その青さに柔らかなものが混じり始める。プティグレンの奥に感じる、ジャスミンを思わせる淡い花の香り。白い花びらが一枚重なったような柔らかさが、青い苦味の角を丸めていく。
不思議なほど、みずみずしさが続く。
青い葉にはまだ水分があり、シトラスにも果汁の気配が残っている。色にするなら、朝露に濡れた黄緑。
ここまで嗅いで、少し分かってきた。
最初に放たれたベルガモットの光を、次の香りが受け取っているのだ。
レモンの酸味を、草の青さが拾う。
果皮の苦味を、プティグレンの葉が受け取る。
そこへ白い花が、わずかな湿度を添えていく。
ひとつの高い音を、違う楽器が弾き継いでいく。
だから30分を過ぎても、まだベルガモットが聞こえる。
一時間ほど経ったころ、その高い旋律の下から低い音が入ってきた。
ガイアックウッド。
黄緑色だった香りの底から、茶色い木の香りが染み出してくる。上ではまだシトラスと青さが鳴り、その足元へ木の低音が静かに寄り添う。すっきりした印象は崩れず、奥行きだけが深くなっていく。
その音は、チェロに似ている。
高い旋律の下で、長い音を一本。
茶色の低音。
そのぶん、ベルガモットの高い音がいっそう澄んで聞こえてくる。
二時間を過ぎるころ、ガイアックウッドの茶色にアンバーの温度がふわりと差し込んだ。そこには、シャリマーにもつながるオポパニンが使われているという。その奥には、乾いたインセンスを思わせる細い煙も漂っている。
そこで、ふと懐かしい香りが頭をよぎる。
シャリマー。
ほんの一瞬、ベルガモットの向こう側に、古いゲランの面影が透けて見えた。
朝から続いていた光は、午後の色に変わっている。
石造りのテラス。木のテーブルには、一個のベルガモットが置かれている。朝、枝に実っていたのと同じ黄緑色の果皮に午後の光が触れ、その隣では黄色い服をまとった女性がくつろいでいる。
こちらには気づかない横顔。テーブルのグラスに、少し傾いた陽射しが映っている。
その向こうには木の扉があり、室内にはアンバー色の灯りがともっている。どこから来たのだろう。光の中を、ごく薄い煙がゆっくりと横切っていく。
朝露に濡れていた黄緑色の光は、いつしか午後の色をまとっている。
果実から葉へ。
花と木を抜けて、午後のアンバーへ。
手首を鼻に近づける。
そこにはまだ、爽やかな酸味と、キリッとした苦味の残響がある。
ベルガモットが最初に放った光は、確かに次の香りへ手渡されていた。
香りを変えながら、それでも消えない光。

それは、美しい光のリレー。

6.2 / 7.0
ゲラン|ベルガモット ファンタスティコ エクストレ 11
Extrait
2023
L’Art & La Matière
Les Extraits Signature
Citrus / Aromatic Green
Calabrian Bergamot
Bergamot Leaf / Petitgrain
Guaiac Wood, Amber / Opopanin
Delphine Jelk
Thierry Wasser
デルフィーヌ・ジェルク
ティエリー・ワッサー




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