モルトンブラウン
ミルクムスク EDT


D’s SCORE(5.6 / 7.0)
言葉を覚える前の、
やさしさの匂い。

ミルクムスク。
この名前は、反則級。
聞いた瞬間、もう嗅いでみたくなる。ミルクのように柔らかく、ムスクのように肌へ寄り添う香りなのだろうか。気持ちが少し疲れた夜、世界から半歩だけ離れたくなったとき、こんな名前の香水がそばにあったら、それだけで少し安心できそうな気がする。

ミルクムスクは世界を救うだろうか。
……さすがに、そこまでは言わない。
でも、誰かの一日くらいなら、そっと救ってくれるかもしれない。
モルトンブラウンは、1971年にロンドンで始まった英国ブランド。バス&ボディ、ヘアケア、フレグランスまで幅広く手がけ、高級ホテルのアメニティでも長く親しまれてきた。エリザベス2世からロイヤルワラントを授与され、現在はチャールズ3世から新たなロイヤルワラントを受けている。
そんなモルトンブラウンが2020年に発表したのが、「ミルク ムスク」。
同じ名前でEDTとEDPが作られているが、香料構成も香りの表情もそれぞれ異なる。今回肌で追うのは、軽やかな方のオードトワレ。
トップはペアーとピーチ。
ミドルにソフトムスク、アンブロキシド、ヴァニラ。
ベースにはホワイトシダーとトンカビーン。
スプレーすると、アルコールの冷たさが一瞬だけ通り過ぎ、そのあとから、ふわっと白い甘さが立ち上がる。
柔らかい。
クリーミー。
そして、ほんの少し粉っぽい。
そこには白い石鹸を思わせる清潔感もある。輪郭は丸く、パウダーを薄く含ませたような質感。ペアーやピーチも果実そのものの形で強く出るというより、洋ナシのみずみずしさや桃の柔らかな甘さとして、白い香りの中へ溶け込んでいる。
その下では、ソフトムスクが静かに広がっている。
白いパウダー。
淡いヴァニラ。
そこへアンブロキシドの透き通った空気。
時間がたっても、大きく表情を変える香りではない。けれど、少しずつ質感が見えてくる。
乾いた粉を思わせるトンカのニュアンス。
かすかなナッティーさ。
その奥を、さらさらと流れていく透明な気配。
ここで、この香水の「ミルク」という名前が急に腑に落ちる。
ミルクムスクのミルクは、液体で流れている。
濃く煮詰めた練乳の甘さでも、ヴァニラアイスの冷たい白さでもない。
白くて、柔らかくて、少し甘い。
けれど、その白さの中には水分がある。
さらりと流れる。
肌の上に薄い乳白色の膜を作りながら、ムスクの清潔感とヴァニラの甘さを連れて、静かに流れていく。
この感覚が面白い。
「ミルキー」と呼ばれる香りには、キャンディやアイスクリームのように、甘さそのものを楽しむものも多い。ミルク ムスク EDTは、そこに空気と水分を残している。
だから軽い。
ふわふわした毛布のように包みながら、その中には風が通っている。
そんな香りを嗅いでいると、不意に赤ちゃんの匂いを思い出す。
柔らかな髪。
温かな肌。
ほんの少し酸味を含んだミルクの気配。
顔を近づけたときにだけ分かる、あの不思議な匂い。
理屈より先に、安心する。
たぶん人は、大人になるずっと前に、こんな匂いを知っている。
名前もまだ知らないころ。
言葉も持たなかったころ。
ただ温かな腕の中に包まれて、それだけで世界が安全だったころ。
ミルク ムスクを嗅いでいると、その遠い感覚がふっと戻ってくる。
香水というより、記憶の肌触り。
白く、柔らかく、少し甘い。
そして、どこか懐かしい。
大人になって忘れてしまった安心を、
もう一度そっと抱き直すための香り。
ミルク ムスク。

それは、肌の記憶に残っていた
いちばん最初の「やさしさ」の匂い。

モルトンブラウン
Milk Musk Eau de Toilette
ミルクムスク オードトワレ
5.6 / 7.0
MOLTON BROWN
モルトンブラウン
Milk Musk Eau de Toilette
ミルクムスク オードトワレ
Maïa Lernout
マーヤ・レヌ
2020
オードトワレ
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パウダリー・ムスキー
ペアー
ピーチ
ソフトムスク
ヴァニラ
アンブロキシド
ホワイトシダー
トンカビーン




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