ピュア ディスタンス
1(ワン)


D’s SCORE(6.7/7.0)
凛とまとう
ファーストの白

白い朝の光が、薄いカーテンを透かして控室にこぼれている。
鏡の前には、丁寧に整えられたブーケ。椅子の背には、静かに息をひそめるヴェール。まだ誰も何も言わないのに、今日という一日だけが、もう特別な輝きをまといはじめている。人生の中でも、そう何度も訪れない大切な日。胸の高鳴りさえ、白く、清らかに見えてくる。

そんな情景に似合う香水がある。ピュアディスタンスの「Ⅰ(ワン)」だ。
本当に丁寧な姿勢で創られた、すばらしい香水をつけてみたい。そう思うなら、ピュアディスタンスは一度触れておいてよいブランドだろう。そこには、単に「いい香り」というだけでは終わらない、静かな感動が待っている。
ピュアディスタンスは、2002年にヤン・エワルト・フォスが創設したオランダ発のパフューマリーブランド。扱うのは、パルファムの中でも最も贅沢な“Pure Perfume Extrait”のみ。大量生産のスピードや派手な流行とは距離を置き、香りそのものの純度と、持つよろこびの美しさを、静かに磨きあげてきたブランドだ。
その第一作として2007年に世に出たのが「Ⅰ」。調香はアニー・ブザンティアン。彼女自身が自分のために創っていた香りが起点になったとされ、ブランドの原点に置かれる一本でもある。ピュアディスタンスという名を最初に名乗るにふさわしい、象徴のような作品だ。
ひと吹きした瞬間、まず感じるのは、白い花々の明るい息づかい。ネロリやマンダリンの光をまとったトップが、ふんわりとやわらかくひらく。高濃度のエクストレにありがちな重たさや威圧感はなく、むしろ驚くほどなめらか。香りが飛び出すというより、肌の上にそっと置かれる感覚だ。
やがて中心にあらわれるのは、ジャスミン、マグノリア、ローズ、そしてミモザ。けれど、この香りの面白さは、それぞれの花が順番に自己主張するところにはない。どの花も「私が主役」と言わず、白いブーケの中で気品だけを交換し合っているような、見事な調和にある。とりわけミモザは、甘さとパウダリーさの奥に、どこか水気を含んだ淡い黄の気配を残す。花粉や蜜を思わせるやわらかなぬくみがありながら、決して粘らない。その明るさが、ジャスミンのふくよかさに、ひと筋の清潔な風を通してゆく。
ラストに向かうにつれ、香りはさらに静まってゆく。アンバーのほのかなぬくもり、ベチバーのきちんとした輪郭、ホワイトムスクの清潔な余韻。甘さを残しながらも、最後は白く洗い上げられた布のように、すっきりと、品よく、肌のそばにたたずむ。
華やかなのに、決して騒がない。女性らしいのに、媚びない。やさしいのに、背筋が伸びている。
この香りには、そんな不思議な均衡がある。
ピュアディスタンスの創業イメージには、白いドレスをまとった一人の美しい女性があるという。裸足で、装飾もなく、ただ白いドレスだけをまとって現れる女性。周囲がどれほど華やかでも、その人の清らかな美しさだけが、空気を変えてしまう。そこには、いかにもグレース・ケリーを思わせる、抑制された気品がある。
「Ⅰ」は、まさにそんな美しさの香りだろう。人を圧倒するためのラグジュアリーではなく、その人がもともと持っている品格を、静かに際立たせる香り。見せびらかすためではなく、人生の特別な場面に、自分自身の輪郭を美しく整えるための香り。
だからこの香りが、女性の白いドレスに重なる。
たとえば式が始まる直前、花嫁がひとり、控室の窓辺に立っている。差しこんだ朝の光がヴェールの端を透かし、胸元のレースにやわらかくほどけてゆく。祝福のざわめきはまだ遠く、部屋には、息をひそめた静けさだけ。これから扉が開き、またひとつの新しい扉が開かれる。その直前の、あまりにも繊細で、あまりにもまばゆい時間。
ピュアディスタンスの「Ⅰ」は、そんな一瞬に寄り添う。
白く、やわらかく、凛として。幸福の少し手前にある、祈りにも似た美しさ。

ピュアディスタンス 「Ⅰ」。それは誰にもゆずらない、あなたファーストの香り。


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