キリアン
サンキッスド ゴッデス


D’s SCORE(7.0/7.0)
太陽に灼かれた肌
白い花のキス

太陽がくれた「神のオイル」、タヒチアンティアレとココナッツ&ヴァニラの濃密な香り。
キリアンの「サンキッスド ゴッデス」は、2024年、限定エディションとして登場した南国の雰囲気漂う香水だ。 日本では24年、25年と数量限定販売され、現在、本国フランスでは定番品となっている。

ブランド創業者キリアン・ヘネシーが、ポリネシアに伝わる香油「モノイ」に着想を得て創り上げたこのフレグランスは、太陽に灼かれた肌を、黄金色の光で包みこむような優美な香りに満ちている。
モノイは、ティアレフラワーをココナッツ由来のオイルに浸して香りを移した、ポリネシアの暮らしと深く結びついてきた香油。肌や髪を潤し、時には神聖な営みにも用いられてきた。まるで南の島に伝わる「神々のオイル」のように。
サンキッスド ゴッデスは、そんなモノイの記憶と官能を調香師カリス・ベッカーが現代の感性で再解釈したもの。キリアン自身の夏の記憶と五感を閉じこめた陽光の一篇。
美しいゴールドキャップを外し、サンキッスド ゴッデスをスプレーする。
その瞬間、可憐なティアレの花と香ばしいココナッツの香りが、一気に真夏の楽園へといざなう。太陽に祝福された肌が、波音に誘われてきらめく。南太平洋のまばゆい白い砂浜、どこまでも透きとおるエメラルドブルーの海が眼前に迫る。光そのものを浴びるような幕開け。
目を静かに閉じて、さらに香りを味わう。
ティアレの白い香りの奥に、熟れたバナナを思わせる濃密な甘さが、低く影を落としている。それは黄色いイランイラン。白く小さなティアレの花が、ココヤシの木陰で海風に花弁を揺らし、妙なる香りを放っている。密林の奥からは、誘うようなイランイランの香りが、時折風に乗って運ばれてくる。香りだけで、島の奥行きまで見えてくる。
遥かなる楽園。くつろぎのひととき。強い陽射しと同じくらいに濃い、熱帯植物が砂浜に落とす陰影。生き物の匂い、強い潮風、熱帯の密林が放つ濃厚な緑の吐息。
その中に咲きほこるエキゾティックな花々。したたる蜜の匂い。
ティアレフラワーの純白と、イランイランの蠱惑の共鳴。白い花びらが眩しい太陽の光を浴びて輝くそのすぐ傍らで、細くうねった黄色い花弁のイランイランが妖しく揺れる。白と黄。光と影。清らかさと官能。その危うい均衡。
肌にまとわる熱い潮風と、太陽の光に溶ける花の香の甘さ、その二重唱。そこへココナッツの乳白色の甘さと、ヴァニラの柔らかな熱が重なってゆく。甘く切ない、モノイを思わせるクリーミーなヴェール。心までゆっくりほどけてゆく。
それぞれの香りのアコードが、ビーチチェアに身体を預ける女性の褐色に灼けた肌をやさしく包みこむ。
いつまでもここにいたい。時間も、この身体も、太陽に灼かれたまま溶けてしまえばいい。そう思わせる、歓喜と官能の香り。
日が傾くほどに、香りは深く温かみに満ちていく。ウッディとシスタスラブダナムの樹脂を思わせるほのかな暗さが、花とココナッツの眩しさの下からゆっくり浮かび上がる。鼻腔の奥に、忘れ得ぬ夏の甘苦い余韻を灯す。
南の島の夕暮れ。昼と夜の狭間。
黄金色に染まりゆくビーチ。波のしぶきが金色にきらめき、指先から肌へと太陽のぬくもりが最後の火照りを残してゆく。遠く水平線に溶けてゆく夕陽に頬が赤く染められる。刻々と変わりゆく夕闇のグラデーション。オレンジに燃える空の上で、南太平洋の星々が巡り始める。
その永劫の営みの中、身体が潮風と花の香りに包まれている。
バルコニーでグラスを傾け、夜の始まりのしじまを感じるひととき。肌の上には、まだ昼の太陽が残っている。白く柔らかなティアレの花が、心に咲いている。
サンキッスド ゴッデスには、キリアンらしい美学が感じられる。香りそのものは濃密なのに、肌から離れて悪目立ちせず、肌そのものの香りを高めていること。
ココナッツも、ヴァニラも、イランイランも決して軽い香料ではない。それでも最後には、ひとつの滑らかな膜となって肌へ沈んでゆく。自分が偏愛する「ローリング イン ラブ」にも通じる、香水と肌との距離の近さ。
香りを見せつけるのではなく、その人自身の体温に溶かしてゆく。そんな官能こそ、キリアンの香水が美しい理由のひとつなのだと思う。
やがて、夜の海。
温びた風が静まり、銀の月が波頭を揺らし、島のかがり火が夜の入口を告げる。
サンキッスド ゴッデスのラスト。ココナッツヴァニラの優雅な香りが、静かに、けれどこまでもエキゾティックに、心と身体を楽園の迷宮へ導いていく。
どこまでも深く。
漆黒の海。その頭上。満天の星空に、幾億もの光がまたたいている。海風に長い髪が巻き上げられ、ティアレの白い花弁がふわりと宙に舞う。
ゆっくりと瞳を閉じる。黒髪の背中が波音に重なる。肌から消えようとする最後の香りに、誰かと交わした言葉の記憶だけが残されてゆく。
それは真夏の抱擁。

太陽が恋した夏の女神へ贈る、最後の柔らかなキス。

KILIAN PARIS
SUNKISSED GODDESS
Eau de Parfum
2024
イランイラン / ティアレフラワー
ココナッツ / ヴァニラ
ガイアックウッド / シスタスラブダナム
Calice Becker

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