L’ARTISAN PARFUMEUR | LA CHASSE AUX PAPILLONS

シャッセ オ パピヨン

 D’s SCORE(5.6/7.0)

 白い光の中
 ちょうちょをつかまえた

「ねえママ、リボンにママの香水つけてー。」
「香水? あ、シャッセ・オ・パピヨン?」
「うん。あの匂い、だーい好き。つけてつけてー!」

ちょっと待ってね。そう言ってドレッサーから香水を取り出す。

今では懐かしい、金色のキャップにピンクのラベルをまとったシャッセ・オ・パピヨン。現在の黒を基調としたボトルになるずっと前の姿だ。そう言えば、最近つけてなかった。そう思いながらソファーに戻る。

座った瞬間、娘がひざの上にドン!と座ってくる。重っ!! いつの間にこんなに重くなったの? こんなんで来月のバレエの発表会、大丈夫かしら?

目の前には、ポニーテールをまとめたブルーのリボン。そのリボンにシャッセ・オ・パピヨンをスプレーする。

娘はパッと立ち上がり、ピルエットでクルクル回り始めた。その瞬間、ふわふわとシャッセ・オ・パピヨンの白い花々の香りが広がる。

ああ、やっぱりいい香りね。

リビングに春の日射しが差し込んでいる。その光まで、一段明るくなったような気がした。

シャッセ・オ・パピヨン。1999年発売。調香師はアン・フリッポ。チュベローズ、リンデンブロッサム、ジャスミン、オレンジブロッサムを中心にした、軽やかなホワイトフローラル。表参道の昔の路面店に通いつめていたOL時代に買った香り。

あの頃のラルチザンは、詩的な作品が多くて本当に素敵だった。金メタルのキャップ。色とりどりのラベル。とりわけピンク色のラベルのシャッセ・オ・パピヨンは大のお気に入りで、「これぞ自分の香り」とばかりに何本もリピした。

夫と初めてデートしたときにもつけていた香り。そして娘が生まれてからもずっとつけてたけど、それでも最近はとんとご無沙汰してた。

そりゃま、いろいろご無沙汰な年だし(笑)。

40才過ぎて、何となく香りが自分に不釣り合いな気がして。大体いい年して「ちょうちょをつかまえて」って、ちょっと痛い気もする。

それでも。

娘はこの香りが大好きだ。

シャッセ・オ・パピヨンをつけていると「ママのにおい~」っていつも抱きついてクンクンしてた。そしてときどき、こうやってリボンにスプレーしてあげるようになった。

白いリビングに、シャッセ・オ・パピヨンの香りがふわふわ漂っている。

それは柔らかなチュベローズと、青々とした葉を思わせるグリーンの気配。緑の庭。そこに白い花の香りだけが、そこはかとなく漂っている。その在りかを探して緑の園をさまようイメージ。

蝶のようにひらひらと、美味しい花の蜜を求めて。

蝶は緑の葉と木々の間をふわりふわりと漂っていく。庭の奥からオレンジの花の香りもしている。爽やかで、心和む、透き通るような白い香り。

心が癒される。

そして森の入口に立つ、見上げるほどの大きな菩提樹。その梢に咲いた黄色いリンデンの花から、ほんのり蜂蜜やマスカットを思わせる、甘く涼しい香りがしてくる。

そんなロマンティックな花々の香りの奥に、本当に強く惹かれる白い花の香りがある。

それがチュベローズ。

きっと森のどこかで、夜を待ってひっそり咲く花。乳白色の花びらの奥に、わずかに人工物を思わせる硬質なニュアンスまで潜ませた香り。それが静かに、そして大胆に、緑の園で舞っている。

…そう、最初はアダージオ。そして、グラン・アレグロ……!

そのとき ゴン!

アゴに激痛が走る。

痛ッ!!

踊り疲れた娘が急に胸に飛び込んできて、小さな頭がアゴを直撃した。ボクサーなら一発で沈むやつ。なんて言ったっけ、アッパー?だからやめてって言ってるでしょ、それ!!思わず頭を軽くペチンとしようとして、不意に手を止める。

「……ごめんなさい」

上目遣いに見る我が子の、つぶらな瞳。ひとしきり踊って汗ばんだ額の匂い。

そっか。

また急に抱っこしてほしくなったんだね。

その瞬間、頬がゆるむ。

「んー、もう!!」

娘をぎゅっと抱きしめる。その小さな身体を腕全体で受け止める。

大っきくなったね。

重くなったね。

でも、この重さ、うれしい。

抱きしめた娘の青いリボンから、シャッセ・オ・パピヨンの香りがしている。柔らかくて、涼しげで、ふんわりしていて。春の庭に咲く白い花を、ぜんぶ束ねたような香り。

うん。あげるよ。

ママの心の花束、ぜんぶあなたにあげる。

そして、娘の小さな耳元に囁く。

「つかまえた。もう放さない!」

娘がじたばた暴れる。本当に心から嬉しそうに。キャッキャと笑いながら。

そこは、緑の庭でも、花咲く森でもない。ただの日だまりに包まれた、白いリビング。

それでも今日、

ママは 一匹の 可愛いらしいちょうちょをつかまえた。

FRAGRANCE DATA

D’s SCORE
5.6 / 7.0

L’ARTISAN PARFUMEUR
La Chasse aux Papillons
ラルチザン パフューム
シャッセ オ パピオン

発売年
1999年

香調/タイプ
ホワイトフローラル/フローラル

TOP NOTES
ジャスミン

MIDDLE NOTES
リンデンブロッサム(菩提樹の花)/オレンジブロッサム

BASE NOTES
チュベローズ

PERFUMER
Anne Flipo(アン・フリッポ)

Doggy Honzawa
Perfume Storyteller
「ハートスコープ」は、香りから見えた心象風景。

ここで分類している「ハートスコープ」や「感情」は、ひとつの香水と向き合う中で、自分が受け取った印象です。

けれど、香りにひとつだけの正解はありません。

同じ香りから、あなたにはまったく別の風景が見え、忘れていた記憶がよみがえるかもしれません。

ここにあるレビューや物語が、あなた自身の風景や感情と出会うための、小さな入口になればうれしく思います。
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