シロ
アールグレイ


D’s SCORE(4.2 / 7.0)
午後の光に、
紅茶の香りを。

紅茶の香りが紡ぐ、午後の優雅なひととき。
SHIROの「アールグレイ」は、ベルガモットの爽やかさと、やわらかなティーノートを軸にしたオードパルファンだ。2018年に限定発売され、好評を受けて定番化した人気作。現在の公式ノートは、トップにベルガモット、ミドルにティーとローズ、ラストにムスクとアンバー。
華やかさで押す香水ではない。むしろ、日常の中にすっと溶け込み、ふとした瞬間に「あ、いい香りだ」と気づく。そんな控えめな存在感が、この香水らしい。

アールグレイの香りは、美しい抒情詩のように、三つの章に展開する。
第一章「窓を開ける」
アールグレイを肌にスプレーする。最初に感じるのは、ベルガモットのほどよい酸味。ただし、鋭く飛び出すようなシトラスではない。どこか水の膜を通したように柔らかく、みずみずしい。
その奥から、ほんのり甘さを伴った紅茶の香りが立ち上がってくる。印象としてはレモンティー。出力は淡い。ともすると、つけた場所へ鼻を近づけなければ分からないほどだ。
けれど、その淡さがいい。柔らかな水。黄色いシトラス。紅色のティー。三つの色が、白い紙の上で少しずつにじみながら重なっていくように、香りの輪郭がゆっくりと見えてくる。
窓を開けた午後。まだ少し冷たい風が、カーテンを揺らす。そんな始まり。
第二章「午後の紅茶」
五分ほどすると、ベルガモットの酸味はゆっくりと後退し、ティーノートがより明確になってくる。SHIROの「ホワイトティー」と比べると、こちらのティーはもう一段軽やかで、透明感がある。ただし、甘さはこちらの方がやや濃い。
べっこう飴を思わせる、少し煮詰めたような甘さ。その甘さの向こうに、ローズの淡い清涼感が見える。さらに、マスカットを思わせるマスカテル香のようなフルーティーさも感じられる。
紅茶らしい渋みを強く描くのではなく、紅茶を飲んだときに鼻へ抜ける、やわらかな香気。そこを丁寧に切り取ったような香りだ。だから、とても馴染みがある。
午後の少し物憂い時間。そろそろお茶にしようと手を止めて、カップへ湯を注ぐ。白い湯気がゆらりと立ち上がり、その向こうから紅茶の香りがふわりと届く。その瞬間、少しだけ肩の力が抜ける。
忙しかった時間が止まり、窓の向こうの景色へ目をやる。午後のまどろみ。この穏やかな時間が、一、二時間ほど続いていく。
第三章「陽が傾く」
アールグレイのラストは、温かみのある甘いムスクとアンバー。ムスクといっても、SHIROの「ホワイトムスク」のような高く澄んだ甘さではなく、ソーピーにもパウダリーにも傾きすぎない。
自分の肌では、ほんのり甘さを帯びた、柔らかなウッディのようにも感じられる。紅茶の輪郭も、少しずつ遠くなる。
午後の光が斜めになり、部屋の床へ長い影を落とす。夏の終わり。もうすぐ休みが終わるのだと、夕暮れを眺めながら少し寂しくなるような時間。楽しかった一日を思い返すように、残り香は静かに追憶へ変わっていく。
SHIROの香水には、共通してひとつの美徳があると思う。人を不快にさせにくい穏やかさ。そして、使っていて心地いいこと。
西洋の香水にある、最初から強く自分を主張するような香りとは少し違う。SHIROの香りは、水彩画に似ている。境界線を強く描かず、色を薄く重ね、淡いグラデーションを作っていく。
香りを強く届けることよりも、日常の中に置いたときに、気持ちよく呼吸できること。そんな感覚を大切にしているように思う。
店舗を訪れても、それに似たものを感じる。自分みたいな野良犬野郎にも、いつも気持ちよく笑顔で接してくれる。その距離感もまた、どこかSHIROの香りに似ている。
近年、海外香水は価格改定を繰り返し、一本の香水を買うこと自体が少しずつ特別な行為になってきた。そんな中で、日常の中で無理なく使え、丁寧に作られた国産フレグランスの価値を、あらためて考えてみてもいい。
SHIROは北海道砂川市で生まれた。今も砂川には、製造工場、ショップ、カフェを備えた「みんなの工場」がある。工場の内部はガラスで仕切られ、製造の様子を訪れた人が見ることができる。そこで作られた製品は、日本各地へ、そして世界へ送られていく。
大都市ではない。人口の多い町でもない。それでも、そこに人が集まり、ものを作り、地域とともに新しい価値を生み出している。その姿には、どこか心を動かされる。
きらびやかな街の真ん中でなくてもいい。人の少ない町でも、土地の風景や素材や暮らしを大切にしながら、すばらしいものを作り、それを全国へ、世界へ届けることができる。SHIROというブランドを見ていると、そんなことを思う。
白いカフェ。大きな窓。窓の向こうには、北海道の雄大な山並み。その手前には、どこまでも続く農園。
夏。遠くの山には、まだ白い雪が残っている。窓辺の席に座り、温かなアールグレイをひと口。
ベルガモットの爽やかさ。柔らかなティー。その向こうに広がる、青い空と緑の大地。香りと風景が、ひとつになる。
いつか、そんな場所を訪ねてみたい。北海道の小さな町で生まれた香りを、その土地の窓辺で纏う。温かな紅茶の湯気の向こうに、大自然の風景を眺めながら。
紅茶の香りが紡ぐ、出会い、まどろみ、そして追憶。

それは、白いアールグレイの詩。

4.2 / 7.0
SHIRO
EARL GREY
シロ
アールグレイ
2018
Eau de Parfum
オードパルファン
Bergamot
ベルガモット
Tea
Rose
ティー
ローズ
Musk
Amber
ムスク
アンバー
Not officially disclosed
調香師:公式非公表
青い茶葉の息吹。
日常へ溶けて。
凛とした余韻。

コメント