FRASSAI | A FUEGO LENTO

ア・フエゴ・レント

FRASSAI A FUEGO LENTO ア・フエゴ・レント 香水ボトル
6.4 / 7.0

 D’s SCORE(6.4 / 7.0)

夜の炎から、
光の海へ。

雄大なアンデス山脈を望むコテージ。窓の外には、星々が降りそうなほど深い夜。暖炉では薪が爆ぜ、オレンジ色の炎が揺れている。その光の中で、二人のシルエットが重なる。熱い吐息。肌に触れる指先。漆黒の闇に浮かび上がる、砂丘の稜線のような輪郭。

女が耳元で囁く。

“A Fuego Lento…”――ゆっくりと、燃え続けて。

その声は、燃え盛る炎というより、消えかけた熾火のように低い。満天の星の下、暖炉の炎だけが揺れるアンデスの夜。そして、夜へ身を委ねる二つの魂。

アンデスの山小屋で暖炉の炎のそばに眠る二人|FRASSAI A FUEGO LENTO

フラッサイの「ア・フエゴ・レント」は、そんな官能的なイメージを与えられた香水だ。

中心となるのはジャスミンサンバック。そこにオレンジフラワーとカシスが差し色を加え、トルーバルサムとシベット、スエードがベースを敷く――調香を手がけたのは、ロドリゴ・フローレス=ルーだ。

では、その香りは本当に、夜の中で燃える炎だろうか。

ア・フエゴ・レントを手首にスプレーする。その瞬間。白い花が、一気に開く。

まず強く出るのは、甘く濃厚なジャスミン。可憐というより、肉感的。花弁の奥から、ひやりとしたインドールの刺激が立ち上がり、鼻の奥を鋭く突く。そこへクリーミーな甘さが重なって、ガーデニアを思わせるほど厚みのあるホワイトフローラルに感じられる。

トップからかなり強い。それも、静かではない。

アルゼンチンだからタンゴ――と思いきや、もっと派手な出力。さながら、サンバホイッスルがけたたましく鳴り響き、鮮やかな衣装の女性たちが勢いよく飛び出してきたような華やかさ。白い花だが、アピールが強い。

五分ほどすると、最初にあったインドールの尖りが少しずつ落ち着いてくる。するとジャスミンは、よりまろやかに花弁を開く。エキゾティックで、ナルコティック。しっとりとして甘い。バルサムやスエードを思わせる柔らかなニュアンスが花の下にうつろい、ジャスミンの輪郭を丸くしている。

展開そのものは比較的シンプルだ。トップで大きく開いた白い花が、そのままミドルまで続いていく。ただ一時間ほどすると、あれほど濃厚だった花の厚みが意外なほど早く引いていく。残るのは、淡くなったジャスミン。その柔らかな残香が肌の上で長く続く。

肌の上では全体として八時間ほど。最初の一時間と、それ以降とでは印象がかなり違う香水だ。

そして、この香りを嗅ぐと思い出す香水がある。それはTOM FORDの「ジャスミン ルージュ」だ。同じロドリゴ・フローレス=ルーによる、ジャスミンを主役にした香りだ。

この二つには、確かにどこか血縁を感じる。ジャスミン ルージュがスパイスやハーブによって花に鋭い輪郭を与えるのに対し、ア・フエゴ・レントはもっとふくよかで、甘い。

クリーミーな白い花。柔らかなスエード。ほのかなバルサム。濃厚なのは、ア・フエゴ・レント。

この香りは、ジャスミンやチュベローズ、ガーデニアのような、肉厚なホワイトフローラルを愛する人には、かなり魅力的な香りだろう。逆に、透明感のある軽い香りを好む人なら、最初の一吹きで、「うわ!濃い。」とのけぞるかもしれない。

それほど遠慮がない。白花の強さがある。甘さも隠さない。とても華やかなホワイトフローラル。

ただ、この香りはどうしても「夜」だけのものには思えない。濃密だったジャスミンが静まり、明るい残香へ変わった頃。目の前に浮かぶのは、アンデスの夜ではなくなる。

青い空の下、光る海。強い陽射しの中、海から吹き上げる風が肌を撫でる。赤いドレスの裾が翻る。好きな服を着て、知らない街を気ままに歩く。そんな景色が思い浮かぶ。

そこに重なるのは、ロサナ・アルベロが歌ったアコースティックの名曲、「A Fuego Lento」。晴れやかな声。軽やかなリズム。この歌を聴きながら香りに包まれていると、不思議なくらいよく似合う。

夜の熱ではなく、爽やかな風と、光と、海。

ああ。出かけたい。知らない街を歩きたい。海の見える道を、何も考えず歩きたい。そんな思いが、香りと歌で広がってくるようだ。

そう考えると、ブランドが描いた夜の情熱や炎のイメージも、人によっては、燃え盛る強さだけではないだろう。

情熱は、いつも激しく燃えているものではないのかもしれない。小さくてもいい。長く燃えていればいい。ア・フエゴ・レントの穏やかなラストを嗅いでいると、そんな感慨すら思い浮かぶ。

夜の暖炉で灯った愛の炎は、いつしか心の中へ。そしてあくる朝、扉を開けた向こうに広がるのは、幸福な青い空と、光る海。

情熱は、強すぎなくてもいい。
ゆっくりと、消えずに。

ロサナの軽やかな声が、香りと風にとけてゆく。

青い海を望む展望台で風に吹かれる赤いドレスの女性|FRASSAI A FUEGO LENTO

A Fuego Lento――静かに、長く、愛して。

FRAGRANCE DATA
D’S SCORE
6.4 / 7.0
BRAND / FRAGRANCE
FRASSAI
A FUEGO LENTO
YEAR
2018
PERFUMER
Rodrigo Flores-Roux
ロドリゴ・フローレス=ルー
CONCENTRATION
Eau de Parfum
NOTES
Black Currant Buds
Orange Flower
Jasmine Sambac
Flouve Odorante / Sweet Vernal Grass
Civet
Suede
Tolu Balsam

ブラックカラントバッド
オレンジフラワー
ジャスミンサンバック
フルーヴ・オドラント/スイートヴァーナルグラス
シベット
スエード
トルーバルサム
この香りの向こうへ
DIOR J’ADORE EDP
光をまとって咲く、
黄金色の白い花。
DIOR | J’ADORE EDP
KILIAN SUNKISSED GODDESS
太陽にほどける、
官能的な白い花。
KILIAN | SUNKISSED GODDESS
YVES SAINT LAURENT GOLD
夜を照らす、
濃密な花の黄金。
YVES SAINT LAURENT | GOLD
Doggy Honzawa
Perfume Storyteller
「ハートスコープ」は、香りから見えた心象風景。

ここで分類している「ハートスコープ」や「感情」は、ひとつの香水と向き合う中で、自分が受け取った印象です。

けれど、香りにひとつだけの正解はありません。

同じ香りから、あなたにはまったく別の風景が見え、忘れていた記憶がよみがえるかもしれません。

ここにあるレビューや物語が、あなた自身の風景や感情と出会うための、小さな入口になればうれしく思います。
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