ルイ ヴィトン
カリフォルニア ドリーム


D’s SCORE (4.8 / 7.0)
ピンクの夢とブルーの憂鬱
黄昏に沈むカリフォルニア

夕暮れの海。日が沈もうとしている。落日の光が、水平線に近い空を黄金色に染めている。イヤホンからイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」が流れてくる。
歌は、暗い砂漠のハイウェイを走る旅人と、涼しい風、夜気に漂う「コリタス」の温かな匂いを描き出す。
.png)
コリタスとは、スペイン語で「小さな尾」。歌の中では大麻の花穂を指す隠語と解釈される一方、夜に咲く砂漠の植物という説明もある。その正体は、今もひとつの答えに定まらない。見たことのない花の香り。存在するのかさえ分からない楽園のメタファー。
一日を終えてぐったりとした心と身体、夢を見させてくれる香りがほしくなるひととき。
ルイ・ヴィトンの「カリフォルニア ドリーム」を肌にのせる。眼前の夕日のようなマンダリンの香りがあたりにたちこめる。しっとりと、そして温かく、ジューシーで、オレンジ果皮を思わせる苦みも感じられる立ち上がり。それはまさに、黄色からオレンジ色に変わってゆく夕日の香りだ。
空全体にうっすらと雲がかかっている。太陽は水平線までもたずに、金色の雲の合間に消えてゆく。みるみるうちに上方の空がペールピンクに染まってゆく。
見蕩れる。その空の色に。ピンクとブルーのグラデーションの美しさに。世界が今だけ、自分のためだけにこの風景を上映していると思えるほどに、圧倒的な色彩。
「ホテル・カリフォルニア」の哀愁を帯びたメロディーが、旅人を甘美な楽園のエントランスへと誘ってゆく。
暮れなずむ海。暗くなった水平線の上は、チェリーピンクとインディゴブルーに色を濃くしてゆく。太陽は静かに姿を消し、その残光が人生の最良の瞬間であるかのように美しくあたりを彩るとき。
マジックアワー。
カリフォルニア ドリームの香りが、ほんのりスパイシーに変わり始める。上空から降りてくる夕闇のように仄暗く、ピンクとブルーが混じり合った境界の紫のように、じんわりと切ない色を呈してくる。
香りのキーノートは、マンダリン、アンブレットシード、ベンゾイン。その3つの香りの狭間から、プチグレンを思わせる青い苦みと、アニスやカルダモンにも似た冷たいスパイスが立ち上がってくる。
そこへアンブレットシードのパウダリーな柔らかさが重なり、さらに奥から、わずかにくぐもった甘い樹脂――ベンゾインが滲み出す。
この夕闇を表したような、やや内省的で涼しげなブルーのアコードが、自分の肌では3~4時間、穏やかに続いてゆく。あたりがすっかり闇に包まれるまで。
夜の帳が下りる。
深いブルーのベルベットのような幕が、海と空の境界をぼかす時間。ブルーモーメントが訪れる。
ベンゾインがほんのりとヴァニラを思わせるクリーミーさを添え、アンブレットシードの儚くパウダリーな残香が、夜を連れてくる。
振り返ると、遠くの街に色とりどりの灯がともっている。日中の暑さをはらんだ、むわんとした空気が、次第に夜の闇へ吸い込まれてゆく。黒いシルエットになった雲の影に、いくつかの星々がまたたいている。
夜の静寂を切り刻むように、「ホテル・カリフォルニア」のイントロが切なく鳴き、やがて歌詞が静かに核心を語り出す。
“We haven’t had that spirit here since 1969.”
「ここにはそうしたスピリット(酒)は1969年以来、置いてないんです。」
それは「精神(spirit)」とのダブルミーニング。失われたヒッピー文化へのオマージュ。どんどん変わり続けるアメリカに対する皮肉と憂鬱。
ようこそホテル・カリフォルニアへ。ここは楽園のように美しい場所。いつでも扉を出られます。けれど決して離れることはできない――歌は、その甘美な逆説へたどり着く。
昼と夜の境目。温かさと冷たさの狭間。自由と孤独の境界。希望と絶望の河岸。ピンクとブルーのボーダー。
そこに閉じ込められた者の喜びと悲哀を、ツインギターがメロディアスに奏でている。
ピンクの世界。夢のカリフォルニア。太陽が沈むまでの刹那、今、ここで、自分だけを見つめていたい。情熱的な夕日の香り。
ブルーの世界。憂いのカリフォルニア。夕日が落ちてからの長い夜、ここではないどこか、自分ではない誰かを探す、虚無を抱えた闇の香り。
ピンクとブルー。自由と孤独。楽園と牢獄。矛盾した精神を、黄昏の空に閉じ込めた香り。
.png)
カリフォルニア ドリーム。
もう置いていないはずのスピリットが、黄昏の海にだけ香っている。

D’s SCORE
(4.8 / 7.0)
BRAND
LOUIS VUITTON
PERFUME
CALIFORNIA DREAM
CONCENTRATION
EAU DE PARFUM
RELEASE
2020
KEY NOTES
マンダリン/アンブレットシード/ベンゾイン
PERFUMER
JACQUES CAVALLIER BELLETRUD

コメント