KILIAN|MUSK BUTTERFLY

ムスク バタフライ

KILIAN Musk Butterflyの香水ボトル

6.3 / 7.0

 D’s SCORE(6.3 / 7.0)

白い羽ばたき、
甘いメタモルフォーゼ。

開演前の、静かな楽屋。

大きな鏡を囲む白い灯り。化粧台にはローズの花束と、まだ使われていない真っ白なパフが置かれている。少し開いた窓から夜風が入り、肩にかかった白いチュールをふわりと持ち上げた。

女優は、鏡に向かっている。

開演前の楽屋で香水を手にするオペラ女優|ムスク バタフライ

ドレスからのぞく、すらりとしたうなじと白い肩。華やかな舞台へ向かう直前の、ほんの少し張りつめた空気。その中で、白いチュールだけが羽のようにかすかに揺れている。

もうすぐ幕が上がる。

女優は化粧台の香水を手に取り、デコルテへそっとひと吹きする。

キリアンの「ムスク バタフライ」。

2021年に発表された、マチュー・ナルダン調香のフローラル・アルデヒド。

香りの中心に置かれているのは、ローズ、アルデヒド、ムスク。ダマスクローズとトルコ産ローズを、マダガスカル産ゼラニウムとモロッコ産ヴァイオレットリーフが支え、その先にアンブレットとサンダルウッドが続く構成だ。

そして、この香りにはひとつ印象的な言葉が添えられている。

「メタモルフォーゼ」。

キリアン・ヘネシーは、空気と大地のあいだにある儚さと強さの対比をこの香りに重ね、始まりから終わりまで続く「変身」を語っている。その名の響きには、プッチーニの『マダム・バタフライ』も重ねられている。

ムスク バタフライのメタモルフォーゼは、肌の上でゆっくりと幕を開ける。

最初に広がるのは、アルデヒドの明るい光。

鏡を囲む白い灯りが一斉に灯ったように、香りの空間がぱっと開く。細かな光の粒が宙へ散っていくように、ほの甘いパウダリーな香りを拡散していく。ムスクの白い厚みが、アルデヒドの拡散でふわりと宙に浮かび上がるイメージ。

5分もすると、そのまばゆさの中から、ローズが少しずつ姿を見せてくる。

ダマスクローズとターキッシュローズ。

白い粉のきらめきの中から咲くバラ。それはとても柔らかく可憐だ。まるでオペラのヒロインが舞台に登場したように。淡い花弁がアルデヒドの光をまといながら、ゆっくりと開いていく。そこへゼラニウムの青さと瑞々しさが加わり、花の輪郭に軽やかな風を通していく。

やがて、ローズが十分に開くと、奥からヴァイオレット系の気配がふっと現れる。

ここから変わるのは、手触りだ。

目の前で咲いていた花が、ゆっくりと柔らかくなる。そこに、ヴァイオレットを思わせる粉のような質感が重なり、花弁の表面に薄いヴェールがかかっていく。

花が、だんだん白くなる。

ローズは輪郭をほどきながら、パウダーの中へ溶け込んでいく。愁いを帯びたアンブレットのムスクに、サンダルウッドのなめらかさが重なり、香りにクリーミーな厚みが生まれてくる。

さながらローズの香りがする白いパフ。

たっぷりとおしろいを含ませた、ふくらみのあるパフ。

指先でそっと押せば、音もなく沈み、甘い粉が静かに舞い上がる。

ムスク バタフライの後半には、そんなきめ細やかなふわふわの触感がある。

その変化は、オペラのドラマティックな展開のようだ。

第一幕:アルデヒドの光からローズへ。
第二幕:ローズからヴァイオレットへ。
そして第三幕は、ムスクとサンダルウッドを含んだ甘くクリーミーな白へ。

ひとつひとつの変化を追っていると、「メタモルフォーゼ」という言葉が実感を帯びてくる。

軽やかに姿を変えながら、最後には白い余韻だけを残していく。

香りが、甘く白い余韻の中へ静かに幕を引いていく。

やがて、きらびやかな舞台の幕もゆっくりと下りた。

公演を終えたあとの、静かな楽屋。

さっきまで舞台の照明を浴びていたアクトレスが、鏡の前で静かに息を整えている。

熱を残した頬。
少し上気した、淡いピンク色の肌。

そこに白いパフをそっとあてるたび、舞台の熱がやわらかな白の中へ溶けていく。

「今夜、私は蝶々夫人だったろうか」

鏡の脇には、公演を祝って贈られた薔薇の花束が飾られている。

深い赤。
淡いクリーム色。

咲きこぼれる花々も、化粧台を照らす白い光の中で霞み、甘いおしろいを薄くまとったように見える。

やがて鏡の灯りが、ひとつ、またひとつ消えていく。

舞台のざわめきは、もう遠い。

静かになった部屋の中で、椅子の背に残された白いチュールが、かすかな夜風を受けて羽のように揺れている。

薔薇は白い夢にほどけ、
舞台の熱は、甘い粉の余韻へ移ろう。

マダム・バタフライ。

終演後の楽屋で白いパフを首元にあてるオペラ女優|ムスク バタフライ

幕が下りても、
その香りはふわりとはばたき続けている。

FRAGRANCE DATA
KILIAN

MUSK BUTTERFLY
ムスク バタフライ
D’S SCORE
6.3 / 7.0
BRAND
KILIAN
FRAGRANCE
MUSK BUTTERFLY
ムスク バタフライ
PERFUMER
Mathieu Nardin
マチュー・ナルダン
YEAR
2021
TYPE
オード パルファム
現FAMILY
The Narcotics
OLFACTIVE STYLE
フローラル・アルデヒド
パウダリー・フローラル・ムスク
KEY NOTES
ローズ
アルデヒド
ムスク
NOTES / MATERIALS
ダマスクローズ
ターキッシュローズ
ゼラニウム
ヴァイオレットリーフ
アンブレット
サンダルウッド
この香りの向こうへ
KILIAN|SUNKISSED GODDESSのアイキャッチ画像
クリーミーな白へ
KILIAN|SUNKISSED GODDESS
GUCCI|BLOOMのアイキャッチ画像
花ひらく白へ
GUCCI|BLOOM
Doggy Honzawa
Perfume Storyteller
「ハートスコープ」は、香りから見えた心象風景。

ここで分類している「ハートスコープ」や「感情」は、ひとつの香水と向き合う中で、自分が受け取った印象です。

けれど、香りにひとつだけの正解はありません。

同じ香りから、あなたにはまったく別の風景が見え、忘れていた記憶がよみがえるかもしれません。

ここにあるレビューや物語が、あなた自身の風景や感情と出会うための、小さな入口になればうれしく思います。
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