SERGE LUTENS | DATURA NOIR

セルジュ ルタンス

ダチュラ・ノワール

セルジュ・ルタンス ダチュラ・ノワールのボトル

D’s SCORE 4.4/7.0

 D’s SCORE(4.4/7.0)

  白い花は、夜の底で
 黒い秘密を咲かせる

ダチュラ・ノワール、それは何かを殺める香り。

夏の夕暮れどき、静かに花弁を開き始め、真夜中に濃厚な甘い香りを漂わせる白い花ダチュラ。ダチュラ・ノワールは、真夜中の秘密。禁断の扉の向こう、ブラック・ベルベットの夜の底へいざなう妖艶な白いドレス。

夜咲きの白いダチュラの花

ダチュラ・ノワールは、2001年、セルジュ・ルタンスから発売された、クリストファー・シェルドレイク調香のオード・パルファムだ。

その名に掲げられたダチュラは、夏から初秋にかけて、夕方から大輪を開き、夜気の中へ甘い香りを放つ種もある、夜咲きの花。ナス科の植物で、漏斗状の花がアサガオに似ていることから、日本では「チョウセンアサガオ」と呼ばれる種もある。ダチュラ属の植物は、根・茎・葉・花・種子などに有毒なアルカロイドを含み、摂取すれば幻覚やせん妄など、深刻な中毒症状を引き起こすことがある。

一方、この香水の公式説明でセルジュ・ルタンスが語っているのは、ダチュラと近縁ながら別属のブルグマンシア――別名エンジェルズ・トランペットの記憶である。ここで語られる「毒」は植物についての事実であり、香水そのものに毒物や幻覚成分が含まれているという意味ではない。

夜の顔をもつ花、ダチュラ。それは、かぐわしい香気で夜行性の蛾を引き寄せる魔性の花。

そんなダチュラ・ノワールのトップは、強烈なフローラル・エクスプロージョンで花開く。一瞬のキンモクセイ、高いところで、そのやや金属的でふくよかな香りが漂い、中音でヘリオトロープの甘く苦い香りが広がる。同時にアメリカンチェリー様の暗くよどんだ甘苦いフルーティーさが重なる。マンダリンやレモンブロッサムも香料構成には挙げられているが、自分の肌では、シトラス系の爽やかな雰囲気はいっさい感じられず、むしろ、何かしら人工的な質感、新しいビニールを開いたときのようなツンとした匂いが前面に出るトップ。

この洗剤っぽい匂いが強くて、スプレー後に何度か鼻を近づけていると、自分は軽い頭痛を感じてしまうことが多い。このトップの香りを受け入れられるかどうかは、好きか嫌いかの分かれ目だろう。この苦みが何に由来するのかは、判然としない。

やがて、5分もすると、軽いめまいを思わせるビニルっぽい苦みは静かに消失していき、ココナッツのクリーミーさをまとったチュベローズの妖しげな香りが広がってくる。甘く気だるい、そして影のある月下香の香り。花粉の粉っぽさや、花の香りの奥底に感じられる何かしらアニマリックな風味も醸し出しながら。

そこに、アーモンドのコクのある苦みが混じり、杏仁豆腐を思わせる乳白色の甘さが強くなってくる。冷たい陶器の器の中で、白い肌を震わせる柔らかな杏仁。ディオールのヒプノティック・プワゾンなどが好きな方なら、このへんの香りは好みの系統かも知れない。アーモンド&トンカビーン系の、ちょっと胸苦しいような独特の甘みと香ばしさは、香りがミドルに入って落ち着いたことを知らせてくれる。

あとは、クリーミーなチュベローズ&ジャスミンを思わせる白い花の雰囲気の香りがそのまま落ち着いて、自分の肌では約4~6時間ほど香る。ただトップのフローラルの押し出し感からは想像できないが、ミドルからはわりにスッキリした香り立ちで、濃厚さはなりをひそめていく印象だ。次第に下の方から、ムスクっぽい透明な雰囲気が立ち上ってくるようになる。

ラストは、高級石鹸を思わせるムスキーな香りに変わる。ほんのりツンとしていて甘め。このあたりが、作品名に掲げられたダチュラの、濃厚でどこか不穏な白い花を表現しているようにも感じられる。そして、最後の最後にわずかだが、キャラメリゼしたような焦げた感じのヴァニラっぽさが顔をのぞかせる。灼けた肌の匂いと間違えそうな香りだ。それがソーピーなムスクと相まって、清潔な雰囲気で消えていく。さながら、夜明けの光に昨夜の秘密を暴かれる前に、真夜中の出来事にベールをかけて、何事もなかったかのようにふるまうような、穏やかなムスクとヴァニラでドライダウン。

デビルズ・トランペットの異名をもつダチュラ。そして、エンジェルズ・トランペットと呼ばれるブルグマンシア。天使と悪魔。白と黒。清潔と毒。ふたつの花の幻影を重ねるように、ダチュラ・ノワールは咲いている。

退廃的でエキゾティックな香り。白い花の姿の奥に、幻覚やせん妄をもたらす有毒アルカロイドを隠してきた「夜顔」ダチュラ。その現実の毒を、セルジュ・ルタンスは一滴の香水ではなく、ひとつの黒い物語へと変えた。

夕べに花開き、濃密な香気を夜へ放ち、金の鱗粉をまとった蛾を招く夜の貴婦人。官能的でありながら、誰にも心の奥を見せようとはしない。白いドレスの内側に、黒い秘密を咲き散らかす女性。秘めやかな夜のベールのもと、夜目にも白いその天幕のドレープの下、今宵も繰り広げられる謎めいた儀式。それは、誰にも言えない欲望の花開く夜。

ダチュラ・ノワール、それは、何かを殺める香り。その蜜恋しさに集まり、金の鱗粉を闇に散らす毒蛾たちの群れ。愛憎と嫉妬とせん妄が、狂おしい夜の営みとともに紡がれてゆく。そのかすかな羽音が消える頃、命を落としたのはだれ?

ダチュラの花に触れる白髪の女性

私をもっと見て。でも、決して触れないで。

セルジュ・ルタンス
ダチュラ・ノワール

D’s SCORE

4.4/7.0

BRAND

SERGE LUTENS

PERFUME

DATURA NOIR

YEAR

2001

CONCENTRATION

EAU DE PARFUM

KEY NOTES

チュベローズ、アーモンド、ヘリオトロープ、ココナッツ、ヴァニラ、トンカビーン、ムスク、レモンブロッサム、マンダリン、ミルラ、アプリコット、キンモクセイ

PERFUMER

CHRISTOPHER SHELDRAKE

Doggy Honzawa
Perfume Storyteller
「ハートスコープ」は、香りから見えた心象風景。

ここで分類している「ハートスコープ」や「感情」は、ひとつの香水と向き合う中で、自分が受け取った印象です。

けれど、香りにひとつだけの正解はありません。

同じ香りから、あなたにはまったく別の風景が見え、忘れていた記憶がよみがえるかもしれません。

ここにあるレビューや物語が、あなた自身の風景や感情と出会うための、小さな入口になればうれしく思います。
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